「自分たちで育てた農産物を、商品にして売りたい」「地域の特産品を活かして、加工品を作って観光地で販売したい」こうした想いから、農業・漁業・林業などの一次産業者が取り組む**6次産業化(生産×加工×販売)**は、近年ますます注目されています。
しかし、現場では次のような声も少なくありません。
- 「せっかく作ったのに道の駅で埋もれて売れない」
- 「製造はできたが、売れ筋商品に育たない」
- 「売れても生産量が追いつかない」
この記事では、小規模生産者が食品OEMを活用して6次産業化を成功させるための“考え方”と“実務ポイント”を解説します。
なぜ6次産業化で「OEM活用」が注目されているのか?
農家や漁師が加工品を製造・販売しようとする場合、課題は山積みです。
- 加工設備の整備には数百万円単位の初期投資が必要
- 衛生管理・表示法・食品表示ラベルなど専門知識が必要
- 商品化・販路開拓のノウハウが不足している
このような中で、食品OEM(受託製造)を活用することで、製造部分を専門メーカーに任せ、自社は企画・原料提供・販売に集中できるため、低リスクで商品開発を進められる仕組みとして注目されています。
OEMを使った6次産業化でよくある“失敗パターン”
いざ商品化に取り組んだものの、売れない・続かないという事例は少なくありません。ここでは代表的な失敗要因を3つ紹介します。
① 売れる前提で大量に作ってしまい、在庫を抱える
小ロット対応のOEMがあるとはいえ、1000個単位の製造でも十分に在庫リスクはあります。 「とりあえず道の駅で並べてみよう」「イベントで売れるかも」という曖昧な計画では、在庫が動かず資材費・物流費が先行して赤字になりがちです。
② コンセプトが曖昧で、“ありきたりな土産品”に埋もれる
地方の道の駅や観光施設では、商品棚にすでに似たようなジャム・ドレッシング・乾物が大量に並んでいます。その中で「見た目が地味」「パッケージが一般的」「ネーミングが凡庸」な商品は、手に取られる前に埋もれて終わります。
③ 売れても量産できず、チャンスを逃す
6次産業化の本質は、“作り手が無理せず続けられる商品設計”。ところが、「想定より売れてしまい、追加製造が間に合わない」「原料の収穫時期が限られている」など、生産と販売のバランスを崩してしまうケースが多発しています。
成功のカギは“小ロット・高単価・コンセプト重視”の三拍子
では、どうすれば成功に近づけるのでしょうか?答えは明確です。「たくさん作って売る」のではなく、「少量でも高く売れる仕組み」を最初から設計することです。
ここでは、6次産業化×OEMで成功するための3つのポイントを解説します。
① 高単価でも選ばれる“理由”を明確にする
大量に出回っている市販品と同じ価格帯で勝負しては、地域ブランドは成立しません。価格を安くするのではなく、「なぜ高くても買いたくなるか」を明確にすることが重要です。
【要素例】
- 規格外野菜などの“もったいない”活用
- 限定品・季節品・希少品種の訴求
- 無添加・砂糖不使用などの素材力
- 農家の顔が見えるストーリー
- ギフト対応・美しいパッケージ
② 最初から“小ロット”を前提に設計する
OEMを活用すれば、初回100個~300個程度の小ロットでも商品化が可能です。
在庫リスクを最小限に抑えつつ、市場テストやSNSでの販売を通じて、徐々にスケールアップするのが成功パターンです。
【ポイント】
- 賞味期限を長く設計(6ヶ月以上)
- 常温保存が可能な商品形態にする
- 包材も最小ロットで対応できるOEM先を選ぶ
③ 商品の“芯”を絞り込み、「誰に・どこで・どう売るか」を最初に決める
ありがちな失敗は、「なんとなく道の駅」「とりあえずふるさと納税」と流通先を広げすぎて埋もれてしまうことです。
むしろ、最初は1つのシーン・1つのターゲットに刺さる商品から始める方が売れます。
【例】
- 子育てママ向け:野菜パウダー入りのおやつ
- 卸業者向け:無添加のスープ素材
- ギフト向け:旬の果物を使ったプレミアムドライフルーツ
6次産業化こそ「少量・高付加価値・個性」に振り切る
6次産業化で成功するには、大量販売や大衆向け商品を目指すのではなく、「誰かにとって“ちょうどいい”商品」を丁寧につくることが鍵です。
OEMを活用することで、製造のハードルは確実に下がりますが、「売れる仕組み」「刺さるコンセプト」「無理のない量産体制」が揃っていなければ、続きません。
自分たちができる範囲で、誰かに喜ばれる価値を提供する──それが6次産業化×食品OEMで最も大切な考え方です。