ナフサ危機で食品企業4割が打撃、容器不足でプリン販売休止も
2026年春、中東情勢の緊迫化でホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥り、石油化学の基礎原料であるナフサの調達が急激に細った。食品・飲料メーカーや飲食店が加盟する生活クラブ・国民生活産業・消費者団体連合会(生団連)の調査では、712の企業・団体のうち44.1%が「すでに事業への影響が発生している」と回答。プラスチック容器の供給不足は深刻で、中堅食品メーカーがプリンの販売休止を検討する事態にまで発展した。ナフサ危機が食品OEM業界にどのような連鎖を起こしているのか、最新の情報を整理する。
ホルムズ海峡封鎖とナフサ調達の途絶
2026年2月28日、中東の軍事的緊張が一気に高まり、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶホルムズ海峡の通航が大幅に制約された。日本が輸入するナフサの約8割は中東経由で、海上輸送ルートの遮断は国内石油化学産業に直接的な打撃を与えた。
ナフサ価格の急騰
スポット市場でのナフサ価格は、2月27日時点の588ドル/MTから3月25日には1,000ドル/MTを突破し、わずか1カ月で56%以上の急騰を記録した。4月1日時点でも917ドル/MTと高止まりが続いている。
| 時期 | ナフサ価格(USD/MT) | 前月比 |
|---|---|---|
| 2026年2月27日 | 588 | — |
| 2026年3月25日 | 1,000超 | +56%以上 |
| 2026年4月1日 | 917 | 高止まり |
国内エチレンプラントの減産ドミノ
原料不足を受け、三菱ケミカルグループ・出光興産・三井化学・旭化成の大手4社が3月以降にエチレン設備の減産を発表した。国内12基のエチレンプラントのうち6基が減産に入り、4月15日時点で通常稼働しているのはわずか3基。残り3基は定期修理中で、事実上の半数停止状態となっている。
国内のナフサ民間在庫は約20日分にとどまり、原油の国家備蓄254日分とは桁違いに脆弱だ。在庫が尽きるまでの猶予は短く、石化メーカーから容器メーカーへの原料供給は既に絞り込みが始まっている。
食品企業4割が「影響あり」の衝撃
生団連が4月に実施した緊急調査の結果は、食品業界の厳しい現実を映し出している。
| 調査項目 | 回答割合 |
|---|---|
| すでに事業への影響が発生 | 44.1% |
| 今後3カ月以内に影響が出る見込み | 31.4% |
| 事業継続に重大な支障がある | 25.0% |
| ナフサ関連素材を使用している | 77.0% |
影響が集中するPP・PE製品
ナフサから生成されるエチレン・プロピレンは、食品容器の主原料であるポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)に加工される。弁当トレー、惣菜パック、刺身容器、カップ麺の容器、レトルトパウチなど、食品製造・流通に不可欠なプラスチック製品のほぼ全てがナフサ由来だ。
汎用合成樹脂の取引価格は3月比で3割上昇しており、この上昇分が容器メーカーから食品メーカーへ、そして最終的に消費者価格へと転嫁される構図が出来上がっている。
プリン販売休止が象徴する危機の深さ
全国展開する中堅食品メーカーでは、5月上旬以降のPP製カップ容器の供給見通しが立たず、看板商品であるプリンの販売休止を検討し始めた。容器が手に入らなければ中身を作れても出荷できないという、製造現場にとって最も歯がゆい状況だ。OEM委託で生産している企業にとっても、委託先の容器調達状況がそのまま自社商品の供給リスクになる。
帝国データバンク調査に見る値上げの波
帝国データバンクが4月に発表した食品値上げ調査でも、ナフサ不足の影響が鮮明に表れた。2026年1-9月の累計値上げ品目数は6,290品目、平均値上げ率は15%。注目すべきは値上げ要因の内訳だ。
| 値上げ要因 | 該当割合 |
|---|---|
| 原材料高 | 99.6% |
| 物流費 | 73.6% |
| 包装・資材 | 69.9% |
| エネルギー | 59.5% |
| 人件費 | 49.4% |
「包装・資材」が69.9%という数字は、帝国データバンクが要因別集計を開始した2023年以来の最高記録だ。同社は「今夏中、遅くとも秋ごろにかけて広範囲な値上げラッシュ再燃の可能性が高い」と予測している。
業界関係者の声
食品メーカー経営者
「物流面では小売店に納品頻度を減らしてもらうよう依頼している。包装資材は現在調達可能なものを検討するしかない状況」と、ある食品メーカー経営者は対応の難しさを語る。使い慣れた容器から切り替えるにしても、食品衛生法への適合確認や充填ラインの調整が必要で、数週間単位の時間がかかる。
通販企業の物流担当
EC通販を展開する企業では、複数商品購入時のおまとめ配送を顧客に呼びかけ、梱包資材の使用量削減に動いている。必要に応じて包装形態そのものの見直しも視野に入れている。
包装資材業界の見通し
仮にホルムズ海峡が明日開放されたとしても、ナフサの輸送・精製・樹脂化・成形というサプライチェーンの回復には最低2-3カ月を要する。包材価格は当面高い水準が続くとの見方が業界の大勢を占めている。
食品OEM事業者への影響
ナフサ危機はOEM受託企業と委託企業の双方に波及する。影響の経路を整理しておきたい。
受託側(OEMメーカー)
容器・フィルムの調達コスト増は、見積もり単価に直結する。既存契約の価格据え置きは難しく、取引先との再交渉が避けられない。自社で容器の在庫を持っていた工場ほど有利だが、在庫水準には限りがある。原材料費高騰でも利益を守るOEM調達戦略を早い段階で見直す必要がある。
委託側(ブランドオーナー)
OEM先から包材コスト上昇分の転嫁を求められたとき、自社のどの商品で吸収し、どの商品で価格改定するかの判断が急務となる。容器の仕様変更(サイズダウン、素材変更)も選択肢だが、パッケージデザインの刷新コストやブランドイメージへの影響を天秤にかける必要がある。
包装資材の代替動向と今後の見通し
プラスチック容器の代替として注目されているのが紙製容器やバイオマスプラスチックだが、短期的な切り替えは困難だ。代替素材への転換が難航している理由と、今後の展望を整理する。
代替が進まない3つの壁
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 設備投資 | 充填ライン・シール装置の改修が必要。数千万円〜数億円規模 |
| 食品安全性 | 紙容器の耐油性・バリア性が食品ごとに異なり、個別の適合試験が必須 |
| 供給量 | バイオマスプラスチックの国内生産能力はPP/PEの1%未満 |
とはいえ、今回のナフサ危機をきっかけに「包装のミニマリズム化」や「ワンウェイ容器からリユース容器への移行」といった議論が業界内で再燃している。中長期的には、石油由来素材への過度な依存を見直す契機になる可能性がある。PB商品売上が過去最高を更新する流れの中で、PB開発時の容器選定にも影響が出てくるだろう。
食品OEM担当者が今すぐ確認すべきこと
ナフサ危機への対応は時間との勝負だ。以下のチェックリストで自社の状況を確認してほしい。
| 確認項目 | 具体的なアクション |
|---|---|
| 容器在庫の確認 | OEM先・自社倉庫の現在庫数を把握。残何日分かを算出 |
| 代替容器の候補リスト | 同じ充填ラインで使える別素材・別サイズの容器を洗い出す |
| 契約書の確認 | 包材コスト変動時の価格改定条項の有無を確認 |
| 納品スケジュール | 5-6月の出荷計画と容器納入予定を突き合わせる |
| 販売計画の見直し | 容器が不足した場合の優先商品・休止商品の仕分け |
食品OEM業界でM&Aが加速する背景にも、こうした資材調達リスクへの対応力が絡んでいる。複数の調達ルートを持つOEMメーカーとの連携が、供給途絶リスクの緩和策として注目される。
まとめ
ホルムズ海峡封鎖に端を発するナフサ危機は、食品業界のサプライチェーンの脆弱性を一気にあぶり出した。食品企業の44%が既に影響を受け、包装資材の仕入れ値は2-3割上昇。プリン販売休止の検討に見られるように、容器がなければ商品を作れても出荷できないという根本的なリスクが顕在化した。
OEM事業者にとって、容器・包材の調達戦略は製造技術と同じくらい事業の生命線だ。今回の危機を短期的なコスト増として処理するのではなく、中長期の資材調達ポートフォリオを再構築する機会として捉えたい。
引用元


