川魚の小骨をどう越えるか——マーサーロック「佐久鯉薫」が冷燻製と薄切りで挑んだ、地域素材の商品化を受託視点で読む
長野県千曲市のマーサーロック株式会社が展開する燻製ブランド「信州スモーク」の新商品「佐久鯉薫(さくごいくん)」が、「FOOD SHIFT セレクション2026」で優秀賞を受賞した。佐久鯉薫は、長野県佐久地域産の佐久鯉を低温でじっくり燻した冷燻製(れいくんせい)で、骨の処理に手間をかけ、薄くスライスした40gを台紙付きの真空個包装に仕上げている。原材料は佐久鯉、食塩、砂糖、香辛料のみで、食品添加物は使っていない。
受賞そのものはブランドの話題だが、受託やPB開発の現場が読むべきは、海のない土地の川魚という扱いにくい原料を、どの工程で売れる商品に落とし込んだかという部分だ。小骨の多さ、下処理の歩留まり、冷凍での流通という条件を、冷燻製と薄切り、個包装でどう越えたのか。地域素材を預かる工場の目線で、公開された工程を追う。
FOOD SHIFT セレクション2026で優秀賞、信州スモークは2年連続
リリースによれば、「FOOD SHIFT セレクション」は国産農林水産物の消費拡大に寄与する商品を対象とした取り組みで、佐久鯉薫が優秀賞に選ばれた。信州スモークは2025年にも、信州サーモンを使った「信州薫鮭」と浅間サーモンを使った「浅間薫鮭」が優秀賞を受賞しており、今回でブランドとして2年連続の受賞となる。主催や審査方法の詳細はリリースに明記されていないため、ここでは踏み込まない。
市販品が見当たらなかった川魚を、あえて商品化した
海のない長野県では、川魚が地域の食文化を支えてきた。佐久鯉は佐久地域を代表する食材のひとつで、農林水産省「うちの郷土料理」でも長野県の鯉こくが紹介されている。鯉こくやうま煮、あらいといった食べ方が親しまれてきた一方、マーサーロックが開発時に調べた範囲では、佐久鯉を冷燻製にした市販のスモーク商品は見当たらなかったという(同社の開発時調査に基づく)。
同社が開発で大きな課題と捉えたのが、骨の処理だ。丁寧に処理するほど手間とコストがかかり、販売価格にも反映されると同社は説明している。
骨の処理と薄切りで「噛んで食べられる」一品にした
佐久鯉薫では、丁寧な下処理に加えて身を薄くスライスすることで、残る小骨もよく噛んでそのまま食べられるように仕上げている(小骨が残る場合があるため、よく噛んで食べるよう案内されている)。調理の手間を食べる側から取り除くために、つくる側が下処理の手間を引き受けた格好だ。
低温でじっくり燻す冷燻製により、佐久鯉本来の旨みと穏やかな燻製の香りを引き出している。解凍すれば、袋から台紙ごと取り出すだけで食べられ、温めや皿への盛り付けはいらない。原材料を佐久鯉・食塩・砂糖・香辛料に絞り、食品添加物を使わない組み立ても、素材の味を立てる狙いになっている。
冷凍−18℃・賞味期限10か月・台紙付き真空個包装
佐久鯉薫は1袋40g。保存は冷凍(−18℃以下)で、賞味期限は製造日より10か月。薄くスライスした身を、台紙を付けた真空の個包装に収めている。販売は信州スモークの公式オンラインショップで行う。冷凍と個包装の組み合わせは、川魚の生ものとしての扱いにくさを流通の段階で吸収し、解凍だけで食べられる状態まで届けるための条件になっている。
商品概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 商品名 | 佐久鯉薫(さくごいくん) |
| ブランド | 信州スモーク |
| 製造・販売 | マーサーロック株式会社(長野県千曲市屋代3143-13、代表:黒岩政洋) |
| 原料 | 長野県佐久地域産の佐久鯉 |
| 原材料 | 佐久鯉、食塩、砂糖、香辛料(食品添加物不使用) |
| 製法 | 低温でじっくり燻す冷燻製 |
| 内容量 | 40g(薄切り・台紙付き真空個包装) |
| 保存・賞味期限 | 冷凍(−18℃以下)/製造日より10か月 |
| 販売 | 信州スモーク公式オンラインショップ |
| 受賞 | FOOD SHIFT セレクション2026 優秀賞 |
受託・PB開発が持ち帰れる論点
ここからは食品OEMの窓口編集部の見立てになる。今回のリリースは、地域の一次素材を預かって商品化を相談される工場にとって、見積もりと工程の棚卸しに使える。
第一に、歩留まりの悪い原料を引き受けられるかどうかだ。小骨の多い川魚のような素材は、下処理の工数がそのままコストに乗る。どこまでの下処理を自社で巻き取れるか、スライスの厚みで食べやすさをどこまで作れるかが、価格と完成度を左右する分かれ目になる。
第二に、冷凍と個包装を前提にした流通の作り込みだ。生ものに近い素材でも、冷凍−18℃と真空個包装、台紙までの作り込みで「解凍だけで一品」に落とせれば、EC単品での販売に乗せやすい。自社が何か月の賞味期限を保証できるかは、そのまま売場提案の幅になる。地域素材と賞味期限の量産については、常温で180日もつ煮卵の事例も合わせて見ておきたい。
第三に、無添加という振り切りだ。原材料を素材と最小限の調味に絞る組み立ては、表示のわかりやすさと引き換えに、保存や品質の管理を製法と温度帯で担保する前提になる。つなぎや保存料に頼らない商品を受ける場合、その管理を工場側で持てるかを先に握っておく必要がある。
まとめ
佐久鯉薫の優秀賞は、骨の多い川魚を下処理と冷燻製、個包装で仕上げた商品化の完成度への評価になっている。地域素材の商品化を相談される工場が次にやることは、歩留まりの悪い原料をどこまで下処理で巻き取れるか、どの温度帯で何か月もたせられるかを、見積もりの前に一枚にまとめておくことだ。
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